東京地方裁判所 平成3年(ワ)18868号 判決 1993年10月22日
原告
宮田哲
右訴訟代理人弁護士
稲垣吉峯
同
服部成太
同
野上邦五郎
同
杉本進介
被告
株式会社エヌ・ジー・エス
右代表者代表取締役
原田伝一
右訴訟代理人弁護士
川窪仁帥
同
中嶋邦明
同
松田成治
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、「株式会社エヌ・ジー・エス」の商号を使用してはならない。
2 被告は、大阪法務局平成元年一二月二二日付をもってした被告の設立登記中「株式会社エヌ・ジー・エス」の商号の抹消登記手続をせよ。
3 被告は、その営業にかかるゴルフスクールの運営、ゴルフ練習教材の販売において、「エヌ・ジー・エス」及び「NGS」の表示を使用してはならない。
4 被告は、原告に対し、金五五〇万円及びこれに対する平成四年一月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は被告の負担とする。
6 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 当事者及びその営業
(一) 原告は、昭和五二年から、米国ナショナル・ゴルフ・ファンデーション(以下「米国NGF」という。)と提携し、ゴルフスクール事業等を営んでいる者である。
(二) 被告は、平成元年一二月二二日、「株式会社エヌ・ジー・エス」の商号をもって設立登記がされた会社であり、ゴルフスクール事業等を営んでいる。
2 原告の営業表示
原告は、「NGF日本」その略称である「NGF」及び「ナショナル・ゴルフ・スクール」、「NATIONAL・GOLF・SCHOOL」、その略称である「NGS」をその営業表示として使用している(以下、順に「原告営業表示(一)」、「原告営業表示(二)」、「原告営業表示(三)」、「原告営業表示(四)」、「原告営業表示(五)」といい、原告営業表示(一)ないし(五)を総称して「原告営業表示」という。)。
3 原告営業表示の周知性
(一) 米国NGFは、一九三六年設立され、全米ゴルフ界及びスポーツ界の関連企業三〇〇余社の基金によって運営されるゴルフ振興財団であり、ゴルフ場施設に関する開発、指導、ゴルファー教育、指導に関する教育プログラムの研究、制作、ゴルフインストラクターの育成、指導などゴルフ振興につながる事業全般にわたって公的活動を行い、現在、アメリカゴルフ協会(USGA)、アメリカプロゴルフ協会(USPGA)とともに全米ゴルフ界を支える三本柱となっていて、ゴルフ界ではアメリカだけでなく、全世界で非常に有名な組織である。
(二) 米国NGFのゴルフ教育指導プログラムは、NGF教育コンサルタントと米国体育学校教授、USPGA指導部スタッフなど米国ゴルフ界の最高指導者達の協力を得て、一〇数年間にわたって研究、開発されてきたゴルフの体系的な基礎理論に基づく極めてユニークかつ特色のあるプログラムであり、多数のテキスト、視聴覚教材、指導要領を有している。
原告は、昭和五二年米国NGFと提携し、米国NGFが開発したゴルフ教材の翻訳権を得て、それを翻訳、発展させ、全体を四段階に分けた日本独自のゴルフ教材を作り上げ、このゴルフ教材と米国NGF独特のゴルフ教育理論に基づくゴルフスクール事業を営んできた。
原告のゴルフ教育理論は、段階的、理論的かつ一貫性をもった教育理論であり、統一的指導要領に基づく合理的、科学的なゴルフの技術と理論の修得を目的としている。そのため、それまでの場当り的な指導と異なり、原告が提携したゴルフ練習場において開催されたゴルフスクールはゴルフ練習者に大変な人気を博した。
(三) 原告は、提携したゴルフ練習場に、原告営業表示(三)ないし(五)を使用して、右のような独特のゴルフ練習システムを有するゴルフスクールを開催させ、その後も同営業表示の使用を今日まで継続し、現在では、その特色あるユニークなゴルフ教育システムを、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ等によって広告活動することにより、原告の提携するゴルフ練習場で開催されたゴルフスクールは、日本国内で非常に有名になり、原告とゴルフスクールの提携契約を締結しているゴルフ練習場は全国で一七〇余りに及んでいる。
被告は、全国のゴルフ練習場の数に対する原告の取引先の割合が3.35パーセントにすぎないから、原告の営業表示は周知ではないと主張するが、ゴルフ練習場のすべてがゴルフスクールを開催しているわけではなく、しかもゴルフスクール事業を行っているのは、美津濃等のゴルフクラブメーカー以外は原告と被告くらいのものである。したがって、ゴルフクラブメーカー以外のゴルフスクール事業者と提携してゴルフスクールを開催しているゴルフ練習場というものを考えた場合は、その数はきわめて限定されており、原告と取引しているゴルフ練習場はきわめて高い割合を示している。
(四) 原告は、原告が設立した「株式会社グリンパル・ジャパン」を出願人として、昭和五七年に第一七類(セーター類、ワイシャツ類)及び第二六類(印刷物、写真、映写フィルム、スライドフィルム)について、昭和五八年には第二四類(運動具)について、それぞれ原告営業表示(二)である「NGF」の商標出願をしてその登録を受け、原告の営業全般にわたってその商標を使用しており、さらに、ゴルフスクールの宣伝、広告及び教材等に原告営業表示(三)及び(五)を使用している。
(五) このような原告の努力により、原告営業表示は、現在、原告の営業を表示するものとして、日本国内において広く認識されている。
4 被告の営業表示
被告は、前記のとおり「株式会社エヌ・ジー・エス」の商号(以下「被告商号」という。)を有し、平成二年初めから「エヌ・ジー・エス」又は「NGS」の営業表示(以下「被告営業表示(一)」、「被告営業表示(二)」といい、被告商号及び被告営業表示(一)、(二)を総称して「被告営業表示等」という。)を使用してゴルフスクールを運営し、ゴルフレッスン用のテキスト、ビデオ等を発行、販売している。
5 原告営業表示と被告営業表示等との類似
(一) 被告商号及び被告営業表示(一)は、原告営業表示(五)と称呼が同一である。また、被告商号及び被告営業表示(一)は、原告営業表示(一)、(二)と称呼が極めて類似している。すなわち、両者は、英文字三文字のうち一文字が異なるだけであり、しかも異なる一文字は、前者が「エス」、後者が「エフ」で頭文字が同一であって、極めて類似しているというべきである。
さらに、被告商号の「エヌ・ジー・エス」の語は「NATIONAL GOLF SERVICE」の略語であるところ、「NATIONAL GOLF SERVICE」の語は、原告営業表示(三)の「ナショナル・ゴルフ・スクール」の表示、原告営業表示(四)の「NATIONAL GOLF SCHOOL」の表示と同様の意味を有するものであるから、被告商号及び被告営業表示(一)は、原告営業表示(三)、(四)と観念が類似している。
(二) 被告営業表示(二)は、原告営業表示(五)と外観及び称呼が同一である。
また、被告営業表示(二)は、右(一)と同様の理由により、原告営業表示(一)、(二)と称呼が極めて類似している。
さらに、被告営業表示(二)は、右(一)と同様の理由により、原告営業表示(三)、(四)と観念が類似している。
6 原告営業表示と被告営業表示等との誤認混同
(一) ゴルフ練習場関係者による誤認混同
(1) 原告は、原告と提携契約を締結した全国のゴルフ練習場に対し、原告が米国NGFの独特のゴルフ教育理論に基づくゴルフ教育教材を翻訳発展させたビデオ教材とスクール看板を貸与し、原告営業表示を営業目的に使用することを承諾し、経営ノウハウを提供して原告が定めるNGF公認スクール基準に則してゴルフスクールを開催させ、かつ、施設の改善、指導システムの改良、指導員の教育研修などを行い、ゴルフスクール用のビデオ、テキスト等の教材の製作、販売をするものである。
他方、被告は、被告と提携契約を締結したゴルフ練習場に対し、被告営業表示(一)及び(二)を営業目的に使用することを承諾し、ゴルフスクールを開催させ、かつ、施設、教材の開発、指導システムの改良、指導員の養成、派遣などを行い、ゴルフスクール用のビデオ、テキスト等の教材の製作、販売をするものである。
(2) 被告は、沖本敏と原田伝一とが設立し、原田が代表者を務める会社である。
このうち、沖本は、もともと原告の経営するNGF日本の関西地方の活動を全面的に委任されていた者であり、原告の発案により設立されたゴルフインストラクター養成資格認定を目的とした日本ゴルフ財団の事務局長にも就任していた人物である。
また、原田は沖本の下でNGF日本を手伝っていた人物であり、右日本ゴルフ財団の専任インストラクターでもあった者である。
ゴルフスクール事業を行っている全国的組織は、日本国内でも一〇団体に満たないのであり、そのうち、ゴルフ用品メーカーのゴルフスクールを除くと、原告と被告の行っているもの以外には、それほど組織だったものはない。
(3) 原告は、四段階(各段階一〇課)、四〇教程のテキストとそれを図解したもの(以下「原告テキスト」という。)を、米国NGFの許可を得て発行し、原告のゴルフスクールではこれに基づいて指導している。
さらに、原告は、昭和六三年には、関西テレビと提携し、関西テレビ・ダンロップゴルフスクールを開催し、そのゴルフスクール用として、ゴルフテキストを日本ゴルフ財団の名称で発行した。このゴルフテキストは、そのゴルフ教育理念、体裁、構成及び内容のうえで、原告テキストとほとんど同一のものであった。
一方、沖本と原田は、平成元年四月、原告に無断で、日本ゴルフ財団の名称で、ゴルフ練習テキスト「NGF GOLF SCHOOL」を出版したが、この教材の表紙は、原告テキストの表紙をそのまま用いているものであり、その内容も原告テキストの内容を大幅に取り入れているものである。
その後、沖本と原田は、平成元年中に相次いで日本ゴルフ財団の職を解任され、同年一二月に被告を設立した。そして、平成二年二月には、被告名でゴルフテキストを出版したが、同テキストは、その体裁、構成、内容の面で、原告テキストとほとんど一致している。たとえば、原告テキストは前記のとおり、四〇教程に分けられているが、被告テキストもまた、詳細な順番等に違いはあるものの、四〇教程に分けられている。
(4) 前記5記載のとおり、原告営業表示と被告営業表示等とが同一あるいは外観及び称呼において類似していることに、右(1)のとおり原告の営業内容と被告の営業内容とはほとんど同一であること、右(2)のとおり被告の営業が従前原告と密接な関係を有していた者によって運営されていること、右(3)のとおり被告の使用するゴルフ教材、ゴルフ教育理論が原告のものに類似していることを併せ考えれば、原告や被告の取引先である各ゴルフ練習場関係者が、被告の営業上の施設又は活動を、原告のそれと誤認混同するおそれがあることは明らかである。現に、いくつかのゴルフ練習場において、原告の営業活動と被告のそれとが誤認混同されたという事実もある。
(二) 一般顧客による誤認混同
(1) 原告の取引先は、直接には各ゴルフ練習場である。しかしながら、前記の原告のゴルフスクール事業の内容からみて、原告と各ゴルフ練習場とは、いわゆる加盟店契約を締結し、一種のフランチャイズシステムによりゴルフスクールの営業をしているものであり、原告は、各ゴルフ練習場との契約に基づき、ゴルフスクールの開催につき各ゴルフ練習場を傘下におさめ、一つの統一的な営業組織体を形成してこれを統率している。したがって、各ゴルフ練習場に備え付けられた看板、パンフレットに使用されている原告営業表示は、各ゴルフ練習場のみならず、原告自身もこれを一般顧客に対して使用しているということができる。そして、この点は、原告と事業内容を同じくする被告についても同様である。
(2) そうすると、前記(一)(1)のとおり原告の営業内容と被告の営業内容とがほとんど同一であるところから、原告が統率する営業組織体の営業内容と被告が統率する営業組織体の営業内容とも、ほとんど同一といえる。また、それぞれの営業組織体の営業表示も、それぞれ原告営業表示あるいは被告営業表示等を使用しているのであるから、当然同一又は類似しているといえる。したがってまた、一般顧客が、被告の統率する営業組織体の営業上の施設又は活動と原告の統率する営業組織体のそれとを誤認混同するおそれがあることは明らかである。なぜなら、一般顧客は、各ゴルフ練習場自体のゴルフ教室であると認識してゴルフ教室に入会するというよりも、あくまで「NGF」、「ナショナル・ゴルフ・スクール」及び「NGS」という営業表示を有する原告の統率する営業組織体の運営するゴルフ教室と認識して当該ゴルフ教室に入会し、同様に、「エヌ・ジー・エス」及び「NGS」という営業表示を有する被告の統率する営業組織体の運営するゴルフ教室であると認識して当該ゴルフ教室に入会するものと考えられるからである。
(三) 右事実によれば、原告及び被告の取引先である各ゴルフ練習場及び各ゴルフ練習場における一般顧客が、被告の営業上の施設又は活動を原告のそれと誤認混同することは明らかである。
7 原告及び被告の主たる営業先は、いずれも日本国内のゴルフ練習場及び一般顧客を相手とするもので同一である。被告は、右のとおり、営業主体を誤認混同させるおそれのある被告商号及び被告営業表示(一)、(二)を使用して営業活動をし、原告のかつての顧客の一部が、被告の営業と原告の営業とを誤認混同したのに乗じて自己の顧客にするなどの行動を行って、原告の営業活動に直接的な打撃を与えており、これにより、原告は営業上の利益を害されている。
8 故意、過失
被告は、その商号及び被告営業表示(一)及び(二)の使用が不正競争防止法一条一項二号の規定に該当するものであることを知りながら又は過失によりこれを知らないで、右使用をしたものである。
9 損害
被告は、被告営業表示等を使用することにより、平成二年及び三年の二年間に、少なくとも二〇〇〇人の受講生を被告ゴルフスクールに入会させ、一人当たり二万七五〇〇円を集めた。右営業の利益率は売上高の一〇パーセントを下らないから、一人当たりの利益は二七五〇円を下らず、被告は少なくとも合計五五〇万円の利益を得た。
不正競争防止法については、特許法一〇二条のような損害額の算定に関する規定はないが、不正競争防止法についても特許法の右規定を類推適用すべきであり、被告の得た右利益の額をもって原告の受けた損害と推定すべきである。
10 よって、原告は、被告に対し、不正競争防止法一条一項二号に基づき、被告商号の使用差止め、被告の設立登記中の被告商号の抹消登記手続、被告の営業活動における被告営業表示(一)及び(二)の使用差止めを、同法一条の二第一項に基づき、金五五〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成四年一月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1(一)の事実は知らない。同(二)のうち、被告が平成元年一二月二二日「株式会社エヌ・ジー・エス」の商号で設立登記されたことは認め、その余は否認する。
2 請求原因2の事実中、原告が原告営業表示(五)を使用していることは否認し、その余は知らない。
3 請求原因3(一)の事実は知らない。同(二)のうち、米国NGFのゴルフ教育指導プログラムの内容は知らない。その余の事実は否認する。同(三)のうち、原告が原告営業表示(五)を使用したこと、原告が開設するゴルフスクールは日本国内で非常に有名であること及び原告と取引しているゴルフ練習場はきわめて高い割合を示していることを否認する。その余の事実は知らない。同(四)のうち、原告が原告営業表示(五)を使用していることは否認する。その余の事実は知らない。同(五)の事実は否認する。
4 請求原因4の事実のうち、被告の商号が「株式会社エヌ・ジー・エス」であること及び被告が「エヌ・ジー・エス」の名称をその製作するテキスト「エヌ・ジー・エス・ゴルフスクール」の一部として用いていることは認めるが、その余の事実は否認する。被告は、被告営業表示(二)を使用したことはない。
5 請求原因5は否認する。
6 請求原因6(一)(1)中、原告の営業内容は知らない。被告の営業内容については、被告がその事業として、ゴルフスクール用のビデオ、テキストの教材の製作、販売及び指導員(インストラクター)の養成、派遣をし、被告と契約したゴルフ練習場に対して、当該ゴルフ練習場がゴルフスクールを開き、そのスクールに日本ゴルフサービスの略称である「エヌ・ジー・エス」の表示を使用することは認めていることについては認める。但し、ゴルフスクールの主催者は各ゴルフ練習場であって、被告ではない。
同(2)のうち、沖本と原田とが中心となって被告を設立したことは認める。また、沖本が、NGF日本の仕事に部外者ではあるが協力し、日本ゴルフ財団なる組織の事務局長に就任したことがあること、原田がフリーの立場でその都度契約して日本ゴルフ財団の講師になったことがあることも認めるが、その余の事実は否認する。
同(3)の事実のうち、原告テキストが四段階四〇教程からなること、原田が平成元年四月にテキストを改定したこと及びそのテキストの内容が原告テキストとイラスト等が似ていることは認める。しかし、右改定については無断で行ったものではなく、日本ゴルフ財団の了解を得ている。また、平成二年に原田がゴルフテキストを作成したことは認めるが、これは、従来のNGF日本のそれとは全く異なる新規かつ先進的な内容であり、両者は一見して相違する。被告のテキストが四〇教程からなることは認めるが、これは一年間を四〇週で仕上げるごく普通の方法であり、これをもって類似とはいえないし、その内容も異なる。その余の事実は否認する。関西テレビやダンロップと契約したのは沖本であって、原告ではない。また、沖本と原田とが日本ゴルフ財団の職を解任されたとの事実は否認する。沖本は辞めたまでであり、原田はもともと外部の人間であるから、以後仕事の申込みを断っただけである。
同(4)の事実は否認する。
同(二)の事実は否認する。被告の顧客はゴルフスクールを開催するゴルフ練習場の経営者であり、一般顧客を相手にするものではない。そして、ゴルフ場の経営者の間では、原告と被告との主体としての相違やテキスト内容の違いはよく知られている。
同(三)の事実は否認する。
7 請求原因7ないし9の事実は否認する。
8 請求原因10は争う。
三 被告の主張
1 原告の営業表示の多様性
原告の営業表示は多様であり、一貫して統一した表示をしている表示はどれか疑わしい。
2 原告営業表示の周知性について
平成二年の全国のゴルフ練習場の数は五〇九九か所であるところ、原告の昭和五五年から平成元年までの取引先ゴルフ練習場の合計は一七一であり、その占有率は3.35パーセントにすぎない。比較的割合の高い東京でも8.87パーセント、大阪でも一二パーセントにすぎない(全国のゴルフ練習場の数字は平成二年のものであるが、平成元年から平成二年の間に右の比率が実質的に相違するほどの全国的なゴルフ練習場の増加はない。)。右事実によれば、原告の営業表示が周知であるとはいえない。
3 誤認混同の有無について
(一) 営業主体の誤認混同は、単なる文字の抽象的一般的な対比によるのではなく、双方の営業表示に使用される標章が現実に使用される態様において比較されるべきである。
まず、原告の使用している営業表示をみると、別紙番号1ないし4のとおりである。
このうち別紙番号2、3についてみると、これらはいずれも独特のシンボルマーク(二重丸の内側の円の中にNとGとSとを太い線で図案化して組み合わせた文字図形を配置し、外側の円と内側の円の間の帯状の部分の中に「NATIONAL GOLF SCHOOL」の一連のアルファベットの大文字が記入されて一体として形成されたもの)と「NATIONAL GOLF SCHOOL」又は「National Golf School」の一連の文字とが不可分一体に表示されているところに特色がある。これは、別紙番号4のとおり「NGF」についても同様である。
一方、被告の営業表示は、カタカナで「エヌ・ジー・エス」を表示する。それは、肉厚で同一幅からなり、やや右側に傾いた感じにするため、文字の下辺を左に寄せる独特の書体を用いている(別紙番号5、7、8、9)。
そして、ゴルフスイングの動作を連続して行っている四個の人のシャドウの図柄(別紙番号6)をシンボルマークとし、別紙番号7ないし9のとおり、このマークが「エヌ・ジー・エス」、「株式会社エヌ・ジー・エス」、「エヌ・ジー・エス ゴルフスクール」の文字の横又は上などに配置されて両者が一体として使用されている。
したがって、原告の営業表示と被告営業表示(一)の現実における表示方法は一見明白に相違し、両者は類似していない。
(二) ビデオ教材を製作し、これをゴルフ練習場にゴルフスクールの教材用として販売する業者は、原告、被告のほかに美津濃、西武の系列の四業者がある。それぞれが異なった内容について、その持ち味をセールスポイントにしているが、被告の特徴は約四〇名のインストラクターを擁し、ゴルフ練習場の求めに応じて派遣していることである。原告は、特自のゴルフ理論を強調するが、その教育実践のためのインストラクターの派遣はしていない。この点で、原告と被告の業務内容には大きな差がある。
もともと原告の契約者であったが、その後に被告と契約するに至ったゴルフ練習場が七か所ある。これらのゴルフ練習場は、原告の提供資料が古くさいとか、原告では良いインストラクターを派遣してくれぬとか、誠実さに欠ける等の理由で被告に切り換えている。換言すれば、原告と被告の営業の誤認混同はなく、その相違を十分認識していたからである。
(三) ゴルフスクールの受講者にとって、どのスクールを受講するかは、各ゴルフ練習場の顧客吸引力、すなわちその交通の便、施設、サービスの内容、料金等にかかっており、どの教材に基づくかは、その選択においては意味をなさない。むしろインストラクターの人柄や指導教育の巧拙の方が利用者の口コミによる評判に結びつくのである。
(四) 以上によれば、原告と被告の営業についての誤認混同はない。
第三 証拠<省略>
理由
一被告営業表示等について
1 被告が平成元年一二月二二日「株式会社エヌ・ジー・エス」の商号で設立されたこと、被告が、被告と契約したゴルフ練習場に対して、当該ゴルフ練習場が開催するゴルフスクールに「エヌ・ジー・エス」の表示を使用することを認めていることは、当事者間に争いがない。
<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、被告が作成し、被告と提携契約をしたゴルフ練習場で受講者勧誘のため配布するゴルフスクールの入学案内においては、ゴルフスクールの名称として「エヌ・ジー・エス ゴルフスクール」の表示が使用され、被告の作成したゴルフテキストでは、その奥付けに、発行者として「株式会社エヌ・ジー・エス」と表示され、その表紙には、「エヌ・ジー・エス」又は「エヌ・ジー・エス ゴルフスクール」の表示が用いられている。右「エヌ・ジー・エス」の文字は、別紙番号5、7ないし9のとおり、いずれも横書きの肉太の文字であり、文字をやや右倒しにしたような形態となっている。
右事実によれば、被告は、被告と契約したゴルフ練習場に経営させるゴルフスクールの名称として「エヌ・ジー・エス」の表示(被告営業表示(一))を使用しているものである。
なお、被告商号、被告営業表示(一)中の「エヌ・ジー・エス」の部分は、被告の意図としては、「NATIONAL GOLF SERVICE」の各単語の頭文字を組み合せた「NGS」という英文字の略語を片仮名で表示したものである。
2 原告は、被告がその営業表示として「NGS」を使用している旨主張し、弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる<書証番号略>によれば、平成三年四月一八日付の新聞スポーツニッポンに掲載された小倉井筒屋のゴルフビッグバーゲンの広告中に、各種のゴルフ用品名と価格が列記された後に、催しの一つとして「NGSチーフインストラクター原田伝一先生によるワンポイントレッスン」が記載されていることが認められる。右「NGS」の表示が被告の意思に基づいて使用されたものであるか否かは証拠上必ずしも明らかではないが、右「NGSチーフインストラクター」の部分がかなり小さな文字で表示されているところをみると、小倉井筒屋の判断において、被告の名称を広告スペースの都合上アルファベットで表示した可能性も否定はできない。そして、他に、被告が「NGS」の表示を使用していることを示す証拠は提出されていないことを併せ考えると、<書証番号略>によっては、被告が「NGS」(被告営業表示(二))を営業表示として使用していることを認めるには足りないものといわねばならない。
二原告営業表示とその周知性について
1 <書証番号略>並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(一) 原告は、遅くとも昭和五四年ころから、ゴルフスクール事業を営んでいる。その事業の内容は、原告と提携契約を締結したゴルフ練習場に対し、ビデオ教材及びスクール看板を貸与し、後記(三)(1)の表示を営業目的に使用することを承諾し、指導運営相談、スクール運営分析等により経営ノウハウを提供してゴルフスクールを開催させ、かつ、施設の改善、指導システムの改良、指導員の教育研修等を行い、ゴルフスクール用のビデオ、テキスト等の教材の販売をするものである。
(二) 原告は、「National Golf Foundation(米国ゴルフ財団)」、略称「N・G・F」という米国の財団と提携していると称しているところ、同財団は、一九三六年にゴルフの健全な発展を目的として設立され、全米三百余社のゴルフ界、スポーツ界の関連企業の基金によって運営され、ゴルファーの教育指導に関する教育プログラムの研究制作等の事業も行なっているものである。同財団は、別紙番号4の左端の標章を自己を表示するマークとしている。
(三) 原告がその営業表示として用いているものは、時期において変化し、また同時期においても複数のものが使用されるなど、必ずしも帰一するところがないが、その主なものは次のとおりである。
(1) 原告と各ゴルフ練習場との間の提携契約書についてみると、昭和五五年ころから昭和五八年ころまでは、契約当事者である原告の表示として、「NGF日本 米国ゴルフ財団日本支局代表宮田哲幹」が、活字体の文字で横書きに使用され、契約の表題は「NGF ナショナルゴルフスクール提携約定書」あるいは、「NGF ナショナルゴルフスクール加盟約定書」と表示され、原告は各ゴルフ練習場に「ナショナルゴルフスクール」の名称を営業目的で使用することを承諾するものとされ、その契約書は、上部余白部にN、G、Fの三文字を組み合わせて全体を円形状にしたモノグラム(以下「NGFモノグラム」という。)と、その右に、上下二段に「NGF日本」及び「National Golf Foundation」の文字を横書きに配列し、あるいはNGFモノグラムの右に「National Golf Founda-tion」の文字を横書きに配列したレターヘッドを使用していた。
また、昭和五九年ころ以降は、契約当事者である原告の表示として「NGF米国ゴルフ財団日本支局 局長宮田哲幹」あるいは「NGF・Jスクール事業本部 宮田哲幹」が活字体の横文字で横書きに使用され、契約の表題は「NGFスクールシステム提携契約書」と表示され、原告は各ゴルフ練習場に「NGF」の名称を営業目的で使用することを承諾するものとされている。
平成二年当時全国にゴルフ練習場は五〇〇〇箇所以上あったが、右のように昭和五五年ころから平成元年ころまでの間に原告と提携契約を結んだゴルフ練習場は全国百七十数箇所で、都道府県別にみると、東京都三四箇所、大阪府二四箇所、愛知県一四箇所、千葉県一三箇所、福岡県一一箇所、兵庫県一〇箇所の外は九箇所以下であり、一五県が〇箇所、一七府県が一又は二箇所であった。
(2) 原告テキストの奥付けには、発行者として「米国ゴルフ財団日本支局」、「NGF日本」の表示が用いられている。その表紙には、その右下部分に、別紙番号4のようにNGFモノグラムの周囲に「NATIONAL GOLF FOUNDATION 1936」の小さな文字を配置した円形のマークと「Natinal Golf Foundation」の横書きの文字とを組み合わせた表示が用いられている。
(3) 原告が作成し、原告と提携契約を締結したゴルフ練習場においてゴルフスクールの受講者勧誘のため配布する入学案内(<書証番号略>)には、原告のゴルフスクール名の表示として、別紙番号2、3のように、N、G、Sの三文字を組み合わせて全体として円形状にしたモノグラム(以下「NGSモノグラム」という。)の周囲に「NATIONAL GOLF SCHOOL sub-sidiary of NGF」の小さな文字を配置した円形のマークと、「National Golf School」及び「ナショナルゴルフスクール」の横書きの文字とを組み合わせた表示が用いられており、その内容の説明においては、「全国のNGS(ナショナル・ゴルフスクール)では、統一された指導方法がとられます。」、「NGS会員登録料」、「NGS標準カリキュラム」という表現が用いられている。
また、その内容の説明中では、「National Golf Foundation」、「NGF」が前記(二)のとおりの米国のゴルフ振興を目的とする財団であることが明記されている。
(4) 原告と朝日新聞広告局が主催して昭和五四年から昭和五八年にかけて東京、大阪で開催した朝日・ダンロップゴルフセミナー又は朝日・ダンロップゴルフスクールについては、それぞれ朝日新聞紙上で広告がされたが、それらの広告においては、「朝日・ダンロップゴルフセミナー」、「朝日・ダンロップゴルフスクール」の表示、「National Golf Foundation」及びその略称としての「NGF」が目立つように表示されていた。主催者中の一社である原告名もそれほど目立たないものの表示されていたが、その表示は、「米国ゴルフ財団日本支局(NGF日本)」、「NGF日本(米国ゴルフ財団日本支局)」あるいは「米国ゴルフ財団日本支局」とされていた。
また、右朝日・ダンロップゴルフスクールの広告中では、会場として「NGFナショナルゴルフスクール」の表示のもとに、会場となるゴルフ練習場が掲載されていた。
右朝日、ダンロップゴルフセミナーの広告は、昭和五四年九月に全面広告が一回、昭和五五年九月と昭和五六年九月に一面の三分の二程の広告が各一回掲載され、また、朝日・ダンロップゴルフスクールの広告は、少なくとも昭和五六年九月、一二月、昭和五八年六月、九月に一面の四分の一程の広告が各一回、昭和五六年一二月に一段の三分の一程度の広告が一回掲載された。
(5) 原告が作成し、又は原告と契約したゴルフ練習場が独自に作成したゴルフスクールの宣伝パンフレットの中では、NGSモノグラムの周囲に「NATIONAL GOLF SCHOOL」の小さな文字を配置した円形のマークが用いられ、「ナショナルゴルフスクール」との表示もされている。また、原告と契約したゴルフ練習場の一つが作成したゴルフスクールの宣伝パンフレットの中には「九州で初めてNGS指導システムによるレッスン」との記載のあるものもある。
(6) 原告と提携契約を締結した各ゴルフ練習場(少なくともその一部)においては、練習場入口付近に、原告から貸与された電飾立看板を置いているが、その看板にはNGSモノグラム及び「National Golf School」の横書きの文字が表示されている。
(7) また、原告が提携契約を締結するに当たり、原告ゴルフスクールの特徴を記載して各ゴルフ練習場に配布している業務提携案内書(<書証番号略>)の表紙には、「NATIONAL GOLF SCHOOL」の文字と「NGF」の文字を含む別紙番号1のマーク及び「NATIONAL GOLF SCHOOL」の横書きの文字が記載されており、その内容には、ゴルフスクールの名称として「ナショナルゴルフスクール」の表示が用いられている。
(8) 昭和五六年秋ころ、北海道で発行されるゴルフ専門の週刊新聞二紙に、原告と提携契約をしたゴルフ練習場が開業することを報じた記事の中で、「NGFナショナルゴルフスクールを開設」等と報道された。
また、昭和五九年八月ころ発行の月刊ゴルフ練習場ジャーナルには、「NGFジャパン」と題して五頁にわたって、原告の運営するNGF日本支局の沿革や活動、提携ゴルフ練習場を紹介する記事が掲載された。
2(一) 右1(三)(1)(2)及び(4)の事実によれば、原告は、昭和五四年ころから今日まで、そのゴルフスクール事業を行う事業主体の表示として「NGF日本」の表示(原告営業表示(一))を使用しているものと認められる。
(二) 右1(三)(1)ないし(4)及び(7)の事実によれば、原告は、「NGF」の表示(原告営業表示(二))を米国NGFを指す表示として使用する場合が多いが、右1(三)(1)の「NGFスクールシステム提携契約書」や「NGF」の名称の使用承諾等のように、原告と契約をしたゴルフ練習場に経営させるゴルフスクールの名称として使用する場合もあり、この限りでは原告自身の営業表示として使用する場合があると認められる。
右1(三)(1)(2)の事実によれば、NGFモノグラムが事業主体としての原告の表示として使用される場合があるが、N、G、Fそれぞれの文字のデザインによる変形が著しいのと、重なり方のため、これがN、G、F三文字からなるものとは簡単には読み取れないから、これを原告営業表示(二)と同視することはできない。
(三) 右1(三)(1)(3)ないし(8)の事実によれば、原告は、「ナショナル・ゴルフ・スクール」の表示(原告営業表示(三))、「NATIONAL GOLF SCHOOL」の表示(原告営業表示(四))を原告と提携契約をしたゴルフ練習場に経営させるゴルフスクールの名称として使用しているものと認められる。
(四) 右1(三)(3)の事実によれば、原告が作成したゴルフスクールの受講者勧誘のための入学案内の説明の中には、「全国のNGS(ナショナル・ゴルフスクール)では統一された指導方法がとられます。」、「NGS会員登録料」、「NGS標準カリキュラム」という表現が用いられているが、このような形で使用された「NGS」は、「ナショナル・ゴルフスクール」の略語として記述的に用いられているにすぎず、原告の営業表示として使用されているものと認めるのは相当でない。
また、前記1(三)(5)の事実によれば、原告と契約したゴルフ練習場の一つが作成したゴルフスクールの宣伝パンフレットの中に「九州で初めてNGS指導システムによるレッスン」との記載があることが認められるが、この記載を原告自身の行なったものとみることができないのみか、この記載も記述的な記載であって原告の営業表示として使用されているものとは認められない。
さらに、前記1(三)(3)(5)(6)の事実によれば、原告が作成したゴルフスクール受講者勧誘のための入学案内書、原告あるいは原告と契約したゴルフ練習場が作成したゴルフスクールの宣伝パンフレット及び原告と契約したゴルフ練習場の少なくとも一部のものの練習場入口付近に置かれている原告が貸与した電飾看板にNGSモノグラムが表示されており、NGSモノグラムは原告が原告と契約したゴルフ練習場に経営させるゴルフスクールを表示する標章として使用されるものということができる。
しかし、NGSモノグラムは、Nの字の左側の縦線が円弧状となり、しかもその上端は右側の縦線の上端より低く、下端は右側の縦線の下端よりはるかに下方にあり、Gの字の右側開口部下端の直線部が比較的目立たず、Sの字の下半部が上半部と不調和に拡がっているうえ、三つの文字の重なり具合が三つの文字を識別しにくい態様であるため全体として一個の複雑な模様とも見え、これがN、G、Sの三文字からなるものとは簡単には読み取れないから、これを原告営業表示(五)と同視することはできない。
他に、原告営業表示(五)が原告の営業表示として使用されていることを認めるに足りる証拠はない。
したがって、原告営業表示(五)が原告の営業表示として使用されているとは認められない。
3 右1(三)の事実によれば、全国にゴルフ練習場が五〇〇〇箇所以上ある中で、原告と提携契約を結んだゴルフ練習場は百七十数箇所にすぎず、東京都三四箇所、大阪府二四箇所の外は一〇箇所台が人口の集中した四府県で、三二府県が二箇所以下であること、したがって、そこで1(三)(3)の入学案内書や1(三)(5)の宣伝パンフレット、1(三)(6)の電飾看板に接し、これを記憶に留めるゴルフ愛好者、ゴルフスクールを受講した1(三)(2)の原告テキストを使用する受講者もそれほど多いとは考えられない。また、1(三)(4)の新聞広告は大新聞における広いスペースを使用した広告であるが、回数も少なく、「朝日・ダンロップゴルフセミナー」、「朝日・ダンロップゴルフスクール」の表示で米国NGFの表示が目立ち、主催者名はそれ程目立つものではなかった。その外、1(三)(8)の記事は、一地区のそれ程発行部数が多いとも思われぬ週刊紙の記事である。
以上のような事実を総合すると、原告営業表示(一)ないし(五)は、ゴルフ練習場関係者にとっても、ゴルフスクールの受講者として予想される一般ゴルフ愛好者にとっても広く認識されているものとはいまだ認められず、他に原告営業表示が周知であることを認めるに足りる証拠はない。
なお、NGFモノグラム、NGSモノグラムが広く認識されているものといえないことも右と同じである。
三原告営業表示と被告商号及び被告営業表示(一)との類否について
1 原告営業表示(一)及び(二)と被告商号及び被告営業表示との対比
(一) 原告営業表示(一)からは、「えぬじーえふにほん」又は「えぬじーえふにっぽん」の称呼を生ずると認められる。原告営業表示(二)からは、「えぬじーえふ」の称呼が生ずるものと認められる。
なお、「NGF」は全国的なゴルフ財団といったことを意味する「NATION-AL GOLF FOUNDATION」の各単語の頭文字をとって組み合わせた略語であるが、我国においてNATIONAL GOLF FOUNDATION自体及びその略語がNGFであることが広く社会において認識されているものとは認められないから、「NGF」の語から直ちに右財団の観念を生じるものとはいえず、「NGF」としても「NGF日本」としてもそれ自体からは何の観念も生じない。
(二) 他方、被告商号の「株式会社エヌ・ジー・エス」の「株式会社」は会社の種類を表す語であるから、被告商号の要部は「エヌ・ジー・エス」の部分にあるものと認められ、被告商号の要部からは「えぬじーえす」の称呼を生ずる。被告営業表示(一)の「エヌ・ジー・エス」からは、「えぬじーえす」の称呼を生ずる。
なお、「エヌ・ジー・エス」は「NGS」を片仮名で書き表したものであると認められるが、その「NGS」が、全国的なゴルフ業務といったことを意味する「NATIONAL GOLF SERVICE」の各単語の頭文字を組み合わせた「NGS」という英文字の略語を片仮名で表示したものであるとしても、我国においてNGSがNATIONAL GOLF SERVICEの略語であることが広く社会に認識されているものとは認められないから、「NGS」の語から直ちに右のような観念を生じるものとはいえず、「エヌ・ジー・エス」の語からは何の観念も生じない。
(三) そこで、原告営業表示(一)の「NGS日本」及び同(二)の「NGF」と被告商号の要部であり、被告営業表示(一)である「エヌ・ジー・エス」とを対比すると、外観において両者が類似するものとは認められない。
次に、「NGF」と「エヌ・ジー・エス」の称呼を対比すると、長音を含む五音のうち、最初の四音である「えぬじーえ」までが共通であり、最後の音である「ふ」と「す」とが異なるのみである。しかし、我国におけるローマ字教育及び英語教育の普及の程度と「えぬじーえふ」、「えぬじーえす」という称呼から他に想起される語句がないことからすれば、「えぬじーえふ」はアルファベットの「NGF」の称呼であり、「えぬじーえす」はアルファベットの「NGS」の称呼であることが直ちに想起され、FとSとは異なる文字であることが認識、識別されるのが一般であり、「えぬじーえふ」の称呼と「えぬじーえす」の称呼は類似するものとは認められない。
「NGF日本」の称呼である「えぬじーえふにほん」又は「えぬじーえふにっぽん」と「エヌ・ジー・エス」の称呼である「えぬじーえす」が類似するとは認められないことは右に判断したところから明らかである。
さらに、「NGF日本」、「NGF」、「エヌ・ジー・エス」は、ともにそれ自体何らの観念も生じない造語であるから、観念の類似を問題にする余地はない。
したがって、原告営業表示(一)、(二)と被告商号及び被告営業表示(一)とは類似しない。
2 原告営業表示(三)、(四)と被告商号及び被告営業表示(一)との対比
(一) 原告営業表示(三)の「ナショナル ゴルフ スクール」は、原告営業表示(四)の「NATIONAL GOLF SCHOOL」の発音を片仮名書きにしたものであり、両者を構成する語のうち「ナショナル」、「NATIONAL」は「国民の」、「国家的」、「全国的」といった意味を、「ゴルフ」、「GOLF」は、ゴルフの意味を、「スクール」、「SCHOOL」は学校の意味をそれぞれ有する、いずれも我国において日常生活で通常に使用されている平易な英語であることは、当裁判所に顕著な事実である。
したがって、原告営業表示(三)及び(四)からは全国的なゴルフ学校という観念が生じ、「なしょなるごるふすくーる」の称呼が生ずるものと認められる。
もっとも、原告営業表示(三)、(四)中の「ゴルフスクール」、「GOLF SCHOOL」の部分は、原告が提携ゴルフ練習場に経営させるゴルフスクールという営業の種類を表すものと解することができるから、原告営業表示(三)、(四)の要部は「ナショナル」又は「NATIONAL」の部分にあると認める余地もある。
この場合、右要部からは「国民の」、「国家的」、「全国的」との観念を生じ、「なしょなる」の称呼を生ずるものである。
(二) 被告商号の要部であり、被告営業表示(一)でもある「エヌ・ジー・エス」と原告営業表示(三)及び(四)又は原告営業表示(三)及び(四)の要部とみる余地のある「ナショナル」、「NATIONAL」とは、外観及び称呼において類似するとは認められない。
また、「エヌ・ジー・エス」からは何の観念も生じないから、「エヌ・ジー・エス」と原告営業表示(三)及び(四)、それらの要部とみる余地のある「ナショナル」、「NATIONAL」とは観念においても類似しない。
なお、「エヌ・ジー・エス」は、アルファベットの「NGS」を片仮名で書き表したものであると認められ、「NATIONAL GOLF SCHOOL」を構成する三つの単語の頭文字を並べるとNGSとなることは明らかであるが、NGSが「NATIONAL GOLF SCHOOL」の各単語の頭文字をとって並べた略語であることが広く社会に認識されているものとは認められないから、この点からも「エヌ・ジー・エス」が原告営業表示(三)、(四)と観念において類似するとはいえない。
したがって、原告営業表示(三)、(四)と被告商号及び被告営業表示(一)とは類似しない。
3 なお、NGSモノグラムと被告商号及び被告営業表示(一)とを対比するに、NGSモノグラムがNGSの三文字からなるものとは簡単に読み取ることができないことは前記二2(四)に認定のとおりであるから、NGSモノグラムからは、格別の称呼も観念も生じないものと認められ、称呼、観念の類似性を問題にする余地はなく、NGSモノグラムの外観と被告商号の要部であり、被告営業表示(一)である「エヌ・ジー・エス」の外観が類似しているものとも認められないから、NGSモノグラムと被告商号及び被告営業表示(一)とは類似しない。
四以上のとおりであって、被告営業表示(二)については使用が認められず、原告営業表示(五)については原告の営業表示としての使用が認められず、また、原告営業表示(一)ないし(五)については周知性が認められず、さらに、原告営業表示(一)ないし(四)と被告商号及び被告営業表示(一)とは類似しないものであるから、その余の主張について検討するまでもなく、原告の本件請求はいずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官西田美昭 裁判官宍戸充 裁判官大須賀滋)
別紙1・3・4・6〜9<省略>